マーキング・ペインティング(Marking Painting)
人類による「直線の発明」が建築の歴史を拓いてきたのではないか。私は今、その根源的な行為を自身の表現として追体験している。
建築の建造現場で直線を出す手段は、現代も世界最古の木造建築群である法隆寺の建立時も変わらず、同じ技法であると推察される。その技法は「墨(すみ)付け」や「墨出し」と呼ばれ、現場に印された直線は役目を果たすと隠れてしまい、竣工後も決して表に出てくることはない。
2020年、現代建築の建造現場で墨出しをおこなっていた私は不思議な感覚をおぼえた。法隆寺建立に従事した先達と同じ技法と行為で墨出しをおこなってい...
マーキング・ペインティング(Marking Painting)
人類による「直線の発明」が建築の歴史を拓いてきたのではないか。私は今、その根源的な行為を自身の表現として追体験している。
建築の建造現場で直線を出す手段は、現代も世界最古の木造建築群である法隆寺の建立時も変わらず、同じ技法であると推察される。その技法は「墨(すみ)付け」や「墨出し」と呼ばれ、現場に印された直線は役目を果たすと隠れてしまい、竣工後も決して表に出てくることはない。
2020年、現代建築の建造現場で墨出しをおこなっていた私は不思議な感覚をおぼえた。法隆寺建立に従事した先達と同じ技法と行為で墨出しをおこなっているのだ。そして、その控えめで静謐な直線の佇まいに詫び寂び(Wabi-Sabi)を感じた。私はこの工学的な直線をアートへと昇華できないか試しみることにした。
さかのぼること紀元前。白亜や赤土の粉をまぶし同じ技法を用いて線を引いていたと考えられるパルテノン神殿の建造をはじめ、現場で直線を引く行為は古代ギリシアから現代へ、脈々と受け継がれている。
私は絵画に「施工」という概念を持ち込み、工学的アクションにより不可視の線の可視化を試しみる。アクション・ペインティングという現代アートの文脈に、墨出しという技法の「施工」をもって概念の拡張を図ることにした。
また、「墨出し」という行為には建築という構造物を正確に建造するため、図面という客観的な指示が存在する。それに対し、マーキング・ペインティングは幾何学をベースとした私の主観による美の追求であるため、「主観と客観の同時性」という哲学の視覚化にほかならない。
パルテノン神殿の建造に従事した古代ギリシアの先達や、法隆寺の建立に従事した先達、そして鉄とガラスとコンクリートで構成されるモダニズム建築の建造に従事した先達たちも、現場で印した直線を思慮深いまなざしで眺めていたのかもしれない。
【技法および素材】
・素材:建築写真
・技法:墨縄(すみなわ)を使用し、アクリルガッシュを弾いて着色する